大手新聞社が弾道ミサイルを撃ち落とせるかのような新聞記事を書いているので、実現可能だと信じている方々が多い様ですが、答えは物理的に不可能です。
その理由をいくつかとりあげてみます。
1)レーザー光は広がる
レーザー光で金属等を焼き切ろうとするためには、なるべく小さい面積に光を集めてエネルギーを集中する必要があります。レーザーカッターやレーザー溶接機はレーザービームを一点に集めてエネルギーを集中することで、金属を焼き切ったり、溶かしたりすることができます。遠方でもレーザー光線を小さい面積に集中できればミサイルの一部を焼き切れるかもしれません。しかし、それは不可能です。
「レーザー光線はどこまでも広がらずに照射できる」と思っている方がいらっしゃいますが、レーザー光といえども回析するので広がります。例え空気の無い真空の宇宙空間だとしても距離がはなれるほど光を一点に集めることができなくなります。これは光の性質なので、どうすることもできません。回析は光をスリットに通すとスリットから広がる現象で、物理の実験などで試したことがある人も多いとお見ます。スリットが狭ければ狭いほど広がります。
どのくらいのビーム径:D0になるか計算式は、
D0 = 4λL/πD
λ:光の波長
L:距離
D:レンズに入射するレーザー直径=レンズの直径とみなす
より遠くでレーザー光を集中させるには、より大きなレンズを使い、波長の短い光を使えば良い事がわかります。ブルーレイディスクがより大容量になったのは、波長が短い青い光を使うために、ビームが絞ることができるから、同じ面積により多くの情報を記録できるからです。
レーザー兵器の場合、例えば 800nmの赤外レーザーを、直径1メートルのレンズで、100km先でどのくらい絞れるか?計算すると直径は約10cmとなることがわかります。これは理想的な光学系が出来た場合です。
宇宙空間から打ちあがってくるミサイルを撃ち落とすとしても、1000km以上の射程は必要だろうから、10mを超えるような大きなレンズと数百キロワットの大出力のレーザーでも、短時間で金属を溶かすほどのエネルギーを集中させることはできないだろう。
読売新聞の絵にあったような、艦船から上昇して行くミサイルを撃ち落とすことは、大気の影響も考えれば不可能だとわかります。
1997 年に有賀氏によって細いビーム径を保ちつつ,あたかも回折しないかのように長距離を伝搬させることが 可能な長距離伝搬非回折ビーム(LRNB:Long Range Nondiffracting Beam)が発見されています。これを利用すれば可能性はあるのではないかという話もありますが、後半に書いておきますが、大きなエネルギーを扱う光学系は熱での変形など考えると簡単ではありません。
2)大気の影響
天体望遠鏡など高倍率の望遠鏡で数キロから十数キロ離れた山や建物を見たことがある人も多いと思うが、ゆらゆら揺れて見えることがほとんどです。よほど条件がよくなければ止まって見えません。光が空気の密度の違いで真っすぐに進んでいないので起こる現象です。三脚にレーザー装置を固定して、数キロはなれたビルの壁にあてると一点に止まらずにゆらゆらと動くはずです。
また、大気にはチリもありますので、光が散乱します。雲が出れば遮断されますし、赤外線は可視光では透明に見えても、水蒸気で散乱、遮断されます。
ということで、地上の近く、大気中でレーザーを遠方に照射することは困難です。アメリがのレーザー兵器実験は、1km程度に近づいてきたゲリラなどを撃退するためであり、何キロも離れた目標を攻撃するためのものではないことは知られています。
(産経新聞には、あたかもミサイルに変わる攻撃兵器であるかのように書かれていましたが)
3)エネルギー/熱の問題
ミサイルや戦車を破壊するだけのエネルギーを照射するためには大きなエネルギーが必要です。たぶん、10~20km程度距離でも、物体を1秒程度で破壊するためには、500kWくらい必要になると考えられます。それだけの電源が必要になります。大型の発電機を搭載できる艦船なら電源の問題は無いでしょう。しかし、ドローンにレーザー兵器を積んでミサイルを撃ち落とせるような記事を書いている新聞記事もありますが、ジャンボジェットくらいのドローンが必要になるでしょう。それも数キロに近づかないと破壊できないでしょうから、敵のミサイル発射場のすぐ近くで待機させなければなりません。まったく現実出来ではありません。
大きなエネルギーのレーザー光はレンズやミラーなどの光学系で、相手を狙わないといけません。レンズやミラーは完全に透明ではありません。透過率が99.9%だとしても、0.1%のエネルギーがレンズやミラーに吸収されるのですから、光学系の温度上昇も大きいです。500kWのレーザー光を照射すると、99.9%は透過しても500Wで加熱されます。レンズやミラーは熱で変形して精度が悪くなります。レンズに傷や埃があると、そこが過熱されて破損します。先の書いたLRNBも通信用のレーザーは扱えても、兵器用となるとエネルギーが大きく変形量も多くなり実用にならない可能性もあります。
忘れてはいけないのは、レーザー装置の発熱です。500kWのレーザーを発射すると、同程度の500kWの熱が発生します。必要な電力は倍ですから瞬間でも1000kWの電力が流せる電源が必要になります。連続運転しない1発だけであれば冷却装置は不要ですが、連続運転する場合はレーザー発生装置の冷却装置が必要ですし、光学系も冷却しなければいけません。
4)機械的な限界
遠方でレーザー光を集中させるためには大型のレンズが必要で、しかも精度も必要です。レーザー光を通過させるため熱対策も必要になります。また、この光学系を精度よく動かす必要があります。非常に小さい動きでも遠方では大きな動きになります。距離が離れれば離れるほど精度が求められます。レンズやミラーそのものを作る技術も必要ですが、それらを支え動かす装置で、しかも艦船等に搭載するとなると振動や衝撃も受けますので、それらの対策も必要になります。
5)光は反射する
鏡に光は反射します。ピカピカの金属表面に光をあてると9割は反射して、熱として金属に吸収されるのは1割にしかなりません。レーザーのエネルギーの1割しか物体を溶かすためにしか使われず、反射してしまうことになります。真っ白にペイントしてあれば吸収される熱は3割です。レーザー兵器のレーザー波長を良く反射する部材や塗料でレーザー光の威力を弱めることができてしまいます。
以上のように、数百キロ先のミサイルの一点にレーザービームを当てて、破壊するということは、不可能だと言えます。物理の法則は変えられませんから、弾道ミサイルを撃ち落とすレーザー兵器が開発できると考えるのは、永久機関が出来ると信じているのに近い感じです。大手の新聞社が、お金をかければすぐにでも実現できそうな事を書いていますが、それはありえません。ましたて、ドローンにレーザ兵器を搭載して、ミサイルを破壊できるというのは、作り話の世界です。
この読売新聞の社説にドローンにレーザ兵器搭載でミサイルを落とす話がありますが、ありえないでしょう。
L:距離
D:レンズに入射するレーザー直径=レンズの直径とみなす
より遠くでレーザー光を集中させるには、より大きなレンズを使い、波長の短い光を使えば良い事がわかります。ブルーレイディスクがより大容量になったのは、波長が短い青い光を使うために、ビームが絞ることができるから、同じ面積により多くの情報を記録できるからです。
レーザー兵器の場合、例えば 800nmの赤外レーザーを、直径1メートルのレンズで、100km先でどのくらい絞れるか?計算すると直径は約10cmとなることがわかります。これは理想的な光学系が出来た場合です。
宇宙空間から打ちあがってくるミサイルを撃ち落とすとしても、1000km以上の射程は必要だろうから、10mを超えるような大きなレンズと数百キロワットの大出力のレーザーでも、短時間で金属を溶かすほどのエネルギーを集中させることはできないだろう。
読売新聞の絵にあったような、艦船から上昇して行くミサイルを撃ち落とすことは、大気の影響も考えれば不可能だとわかります。
1997 年に有賀氏によって細いビーム径を保ちつつ,あたかも回折しないかのように長距離を伝搬させることが 可能な長距離伝搬非回折ビーム(LRNB:Long Range Nondiffracting Beam)が発見されています。これを利用すれば可能性はあるのではないかという話もありますが、後半に書いておきますが、大きなエネルギーを扱う光学系は熱での変形など考えると簡単ではありません。
2)大気の影響
天体望遠鏡など高倍率の望遠鏡で数キロから十数キロ離れた山や建物を見たことがある人も多いと思うが、ゆらゆら揺れて見えることがほとんどです。よほど条件がよくなければ止まって見えません。光が空気の密度の違いで真っすぐに進んでいないので起こる現象です。三脚にレーザー装置を固定して、数キロはなれたビルの壁にあてると一点に止まらずにゆらゆらと動くはずです。
また、大気にはチリもありますので、光が散乱します。雲が出れば遮断されますし、赤外線は可視光では透明に見えても、水蒸気で散乱、遮断されます。
ということで、地上の近く、大気中でレーザーを遠方に照射することは困難です。アメリがのレーザー兵器実験は、1km程度に近づいてきたゲリラなどを撃退するためであり、何キロも離れた目標を攻撃するためのものではないことは知られています。
(産経新聞には、あたかもミサイルに変わる攻撃兵器であるかのように書かれていましたが)
3)エネルギー/熱の問題
ミサイルや戦車を破壊するだけのエネルギーを照射するためには大きなエネルギーが必要です。たぶん、10~20km程度距離でも、物体を1秒程度で破壊するためには、500kWくらい必要になると考えられます。それだけの電源が必要になります。大型の発電機を搭載できる艦船なら電源の問題は無いでしょう。しかし、ドローンにレーザー兵器を積んでミサイルを撃ち落とせるような記事を書いている新聞記事もありますが、ジャンボジェットくらいのドローンが必要になるでしょう。それも数キロに近づかないと破壊できないでしょうから、敵のミサイル発射場のすぐ近くで待機させなければなりません。まったく現実出来ではありません。
大きなエネルギーのレーザー光はレンズやミラーなどの光学系で、相手を狙わないといけません。レンズやミラーは完全に透明ではありません。透過率が99.9%だとしても、0.1%のエネルギーがレンズやミラーに吸収されるのですから、光学系の温度上昇も大きいです。500kWのレーザー光を照射すると、99.9%は透過しても500Wで加熱されます。レンズやミラーは熱で変形して精度が悪くなります。レンズに傷や埃があると、そこが過熱されて破損します。先の書いたLRNBも通信用のレーザーは扱えても、兵器用となるとエネルギーが大きく変形量も多くなり実用にならない可能性もあります。
忘れてはいけないのは、レーザー装置の発熱です。500kWのレーザーを発射すると、同程度の500kWの熱が発生します。必要な電力は倍ですから瞬間でも1000kWの電力が流せる電源が必要になります。連続運転しない1発だけであれば冷却装置は不要ですが、連続運転する場合はレーザー発生装置の冷却装置が必要ですし、光学系も冷却しなければいけません。
4)機械的な限界
遠方でレーザー光を集中させるためには大型のレンズが必要で、しかも精度も必要です。レーザー光を通過させるため熱対策も必要になります。また、この光学系を精度よく動かす必要があります。非常に小さい動きでも遠方では大きな動きになります。距離が離れれば離れるほど精度が求められます。レンズやミラーそのものを作る技術も必要ですが、それらを支え動かす装置で、しかも艦船等に搭載するとなると振動や衝撃も受けますので、それらの対策も必要になります。
5)光は反射する
鏡に光は反射します。ピカピカの金属表面に光をあてると9割は反射して、熱として金属に吸収されるのは1割にしかなりません。レーザーのエネルギーの1割しか物体を溶かすためにしか使われず、反射してしまうことになります。真っ白にペイントしてあれば吸収される熱は3割です。レーザー兵器のレーザー波長を良く反射する部材や塗料でレーザー光の威力を弱めることができてしまいます。
以上のように、数百キロ先のミサイルの一点にレーザービームを当てて、破壊するということは、不可能だと言えます。物理の法則は変えられませんから、弾道ミサイルを撃ち落とすレーザー兵器が開発できると考えるのは、永久機関が出来ると信じているのに近い感じです。大手の新聞社が、お金をかければすぐにでも実現できそうな事を書いていますが、それはありえません。ましたて、ドローンにレーザ兵器を搭載して、ミサイルを破壊できるというのは、作り話の世界です。
この読売新聞の社説にドローンにレーザ兵器搭載でミサイルを落とす話がありますが、ありえないでしょう。